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御剣と二人で久し振りに外に飲みに来たものの、酒を煽っている間中、成歩堂は暇さえあれば溜息ばかりを漏らしていた。
「はぁー……」
何度目になるか解からない深い溜息を吐き出した時、見かねたように御剣が顔を覗き込んで来る。
「どうしたと言うのだ、さっきから」
「うーん、実はさぁ…家賃が払えなくて、今月も」
「今月も?」
「三ヶ月、溜め込んでるんだよね、困ったよ」
そう言いながらも、こうして酒を飲む金はあるのだけど。
それとこれとは別物だ。
纏まったお金と言うのはなかなか出来るものではない。
あの、助手の女の子も家賃を払ってくれる気はないようだし。
経費は嵩むばかりだ。
「御剣、お前、払ってくれない?」
「……」
既に相当の酒を飲んでいたため、呂律の回らない声でふざけたように言うと、痛い沈黙が広がった。
この手の冗談は、いつも彼に通用したためしが無い。
怒り出す前に、冗談だよ、と言おうとした言葉が、御剣の声に重なった。
「いいだろう」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか解からなかった。
今、彼は何と?
成歩堂がぽかんとした顔で見返すと、御剣は眉間にぎゅっと皺を刻んだ。
「いいだろうと言ったんだ」
「え、え…?」
本当に?
まさか、そんな返事が返って来るとは思わなかった。
言ってみるものだ。
無邪気に顔を輝かせた成歩堂に、御剣の厳しい声が掛かった。
「ただし。勿論、タダと言う訳にはいかない」
「え、いや、でも…お金はないよ…」
「そう言うことではない、見返りと言うものだ」
「あ、ああ…」
そう言うことか。
金の代わりに、して欲しいことがある、と。
「いいよ、裁判で負けろなんてのはムリだけどね。で?何をすれば良い訳?」
「そうだな、強いて言うなら、何もしなくていい」
「……?」
又しても頭の中に疑問符が浮かぶ。
今日の御剣は、どうも様子が可笑しい。
彼も相当酔っているのだろうけど。
「はっきり言うなら、何もしてはいけない、だな。どうなのだ、成歩堂」
「え……う、うん」
急かすように返答を求められて、成歩堂は慌てたように口を開いた。
「ほ、本当にそんなんでいいのか?」
「ああ、勿論だ。異存は?」
そうまで言うなら、嘘はないんだろう。
何だか少し、怪訝な感じもするけれど。
話に乗らない手はない。
「…ないよ」
少しの間の後。
ゆっくりと首を縦に振ると、御剣は満足そうに頷いた。
「では、交渉成立だな」
そんな話をしていたのは、つい一時間前のこと。
それから、二人で御剣の部屋にやって来て。
どうして、こう言うことになっているのか。
「んっ、み、御剣…っ!」
部屋に入るなり、彼に側に引き寄せられて、気が付いたら唇を塞がれていた。
舌先が強引に唇を割って侵入して、口内を弄ぶ動きに、成歩堂は首を捩って抵抗を試みた。
「な、何するんだよ!」
喚いた途端に、両腕を強く掴まれて、壁に押し付けられてしまった。
あまりに強い力でそうされた為、勢い余って背を打ち付ける。
ただごとではない彼の雰囲気に、成歩堂は怒りも忘れて目を見開いた。
「御剣…?」
「何もするなと言ったはずだが…?」
「……!!」
御剣の、苛立ちを含んだ声が耳に届いた。
同時に、頭を何かで殴られたような衝撃が走る。
まさか…?
御剣の意図が今更ながら解かって、血の気が引いた。
まずい、これは…。
「こ、こんなの…聞いてない」
上ずった声を上げると、御剣は成歩堂の首筋にそっと顔を寄せた。
「きみがいけない。確認しなかったきみが」
「……な、っ」
熱い舌が這わせられて、ぞくりと肌が粟立つ。
引き裂かれるような勢いでシャツの前を割られて、成歩堂は手足をばたつかせた。
「や、止めろって、御剣!」
「…今更、取り消しは利かない」
「……っ、そんなの!」
そんな勝手、聞き入れられる訳ない。
逃げようと身を捩った途端、ぐいと乱暴に引かれてバランスを崩した。
そのまま、強引にベッドへと放り投げられる。
柔らかいマットに埋もれると同時に、背中の上に御剣が覆い被さって来た。
「成歩堂…」
「……んっ!」
耳元で囁く声と同時に、背後から乱れた胸元を弄くられる。
ぎゅっと指先で突起を掴まれて、引き攣った声が漏れた。
「み、御剣!正気なのか、お前!」
彼も相当酔っていたのは解かっている。
でも、こんなこと、今まで一度だってなかったのに。
緩んだネクタイが引き抜かれて、床に投げ捨てられる。
「や、嫌だって、御剣!!ちょっと待てよ!」
続いて、スラックスにまで掛かった御剣の手を、成歩堂は必死で引き剥がそうと力を込めた。
彼の力は驚くほど強かったが、こちらも必死だ。
気を抜けば、あっと言う間に剥かれてしまう。
待ってもらったところで、彼を説得出来るのかは解からないけれど。
とにかく、何の覚悟もないままこんな風にされるのは心外だった。
大の大人がベッドの上で格闘している様は何だか滑稽だったが、成歩堂にとっては死活問題だ。
やがて、御剣の方が根負けしたのか。
下衣に掛かった指先からするりと力が抜けた。
ようやく諦めてくれるのかと思い、ホッとしたのも束の間。
彼が少し屈んで、床から何かを拾い上げるのが目に入る。
「……?」
ややして。
体制を立て直した御剣の手に、先ほど引き抜かれたネクタイが握られているのを見て、成歩堂の目には怯えの色が走った。
「言ったはずだ、何もするなと」
「み、つるぎ…」
「約束は守ってもらう」
「……っ」
信じられないように目を見開く成歩堂の手首を、殊更ゆっくりとした動きで一つとって。
御剣はそれをベッドの柄に丹念に縛り付けた。
ぎゅっと締め上げられたときに痛みが走って、ようやく我に返る。
もう一つ、自由を奪われてしまったら、今度こそお終いだ。
こちらに伸ばされた御剣の手から逃れようと、成歩堂は必死で抵抗を始めた。
「嫌だ、いや、だ!御剣…っ!」
ぎりぎりと力を込めて、掴まれた腕を押し返す。
でも、こちらが自由なのは片手だけ。
足をばたつかせても、上に圧し掛かられたまま押え付けられて、びくともしない。
必死の足掻きも空しく、捕えられた手は頭上に掲げられて、もう片方と共にきつく戒められてしまった。
続いて、何も遮るもののなくなった下衣に手が掛かり、ずるりと引き摺り下ろされる。
普段日に当たらない部分まで親友の目下に晒されて、成歩堂は羞恥で頭がどうにかなりそうになった。
シャツが左右に割られて、御剣の手が這う。
「あっ、み、つるぎ…っ」
首を振って嫌がったけれど、どうしようもない。
彼の唇が胸元の突起に触れて、そこを執拗に舐め上げた。
「い、やだ…っ」
じわりと妙な感覚が走って、訳も解からず上体を捩る。
肌の上を這う濡れた感触に、きつく拘束された腕、もがく両足の間に割って入った熱い体。
少しずつ、歯車が狂っていくような気がする。
頭の奥が痺れて、うまく思考が纏まらない。
「んん、あ、ぁ…っ」
敏感な部分を刺激されて、掠れた声が上がってしまう。
膝を割って差し入れられた御剣の指が奥へと触れる。
異物が割り込む感触に、快楽に蕩けていた頭が一瞬で我に返った。
「…!やめ、止めてくれ、御剣!」
懇願の声など聞き入れられるはずもなく、彼の指先が中へと潜り込み、成歩堂はひく、と喉を引き攣らせた。
暫くの間、指さえも満足に入らないその場所を無理に広げられ、突き上げられ、声にならない悲鳴が上がる。
じくじくと内部から痛みが生じて、成歩堂の目には涙が溢れそうなほどに堪りだした。
やがて、膝の裏に手が回されて、ぐいと足を持ち上げられる。
それが左右に広げられて、後孔に熱いものが押し当てられた。
無意識に下肢が強張り、息を飲んだ瞬間。
「…あぁ…っ!」
ぐっと彼の熱が捩じ込まれて、痛みに悲鳴が上がった。
申し訳程度に慣らしただけでは、スムーズに入るはずもない。
引き攣る痛みが走って、成歩堂は体を強張らせた。
「い、痛っ、御剣!」
御剣だって、相当痛いはずだ。
それなのに、彼は無理矢理肉を割って中に押し入ろうとする。
ぐ、ぐ、と何度も腰を押し付けられて、成歩堂は子供のように頭を打ち振った。
「御剣、た、頼む…止め・…っ」
目尻に堪っていた涙が堰を切ったように溢れてシーツに零れ落ちる。
やがて、少しも進まない行為に苛立ちを覚えたのか、彼は成歩堂の中心に手を伸ばして、萎えたままのものを掌に握り込んだ。
「……っ!」
悲鳴は掠れてしまって、声にならない。
何度も擦り上げられて、徐々に力が抜けると、その隙を見計らったように御剣が奥まで入り込んでくる。
もう、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「成歩堂、力を抜け」
「んん…っ、む、無理…だっ」
「大丈夫だ、ゆっくり息を吐け」
「くっ、んん…」
痛みから逃れたくて、耳元に届く御剣の声に必死で縋り付く。
その痛みを与えているのは彼なのに、止めて欲しいと懇願するだけの余裕はもうなかった。
「は…っ、は、ぁ…み、つるぎ…」
少しずつ入り口が綻んで来るのを確認して、御剣が腰を揺らし始めた。
一度引いて、再び奥まで突き上げる。
「あ……っ!」
何度も続く痛みに、成歩堂は首を振って嫌がったけれど、彼は動きを止めようとしなかった。
荒く吐き出される吐息が耳元を掠めて、ぞくぞくと痺れが背筋を這い上がる。
「成歩堂…」
「ん、……っ」
御剣の声が名前を呼んで、頬に伝った涙を舌で掬い上げた。
抵抗する気力も根こそぎ奪われて、ぐったりとした成歩堂の体を彼は夢中で貪り続けた。
やがて、限界を迎えた御剣の熱が直に体内に流れ込んで来るまで、その行為は続いた。
「まだ…怒っているのか」
「あ、当たり前だろ!!」
ようやく解いて貰えたものの、手首は擦り切れて赤くなって、ひりひりと痛む。
それ以上に、少しでも身動きする度にじくじく痛む体をどうしたらいいのか。
泣きそうになって喚くと、彼は居心地が悪そうに視線を逸らした。
さっきまで、あんなに強引に迫って来た彼とは別人だ。
「こんなことだって解かってたら、最初から…」
最初から、言ったりしなかった!
思い切り喚こうとして、成歩堂は息を飲んだ。
御剣が、酷く傷付いたような顔をしたから。
(な、何で……)
何故、こちらが気を使わなくてはいけないのか。
物凄く理不尽に思いながら、成歩堂は喉元まで出掛かっていた言葉を無理矢理飲み込んだ。
何だと言うのだろう、一体。解かるはずもない。
けれど。
「家賃は…絶対に払って貰うからな」
代わりに口にしたこちらの言葉に、御剣は少しだけホッとしたような表情を見せた。
END