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 全てが終った後。
 あの彼の娘一条美雲と、彼女と共に事件に大きく係わった御剣検事が馬堂の元へ面会に来た。

「ねぇ、馬堂のおじちゃん。お父さんて、仕事しているときどんな感じだったの?」
 型通りの挨拶が済むと、美雲はそんなことを言いながら好奇心に満ちた目でこちらを見詰めて来た。
「一条、か……」
 つい、その顔に一条の姿を重ねて、馬堂は小さく唸った。
 少し答えが遅れたせいか、側にいた御剣が促すように声を上げる。
「私も知りたいのだが、馬堂刑事、いや、馬堂さん」
「……ああ、そうだな。美雲、お前ももう大人だ。全て話してもいいだろう」
「うん!」
 パッと美雲の顔に笑顔が浮かぶのを見ながら、馬堂は数年も前の彼とのやり取りを頭の中に思い巡らせた。
 一条九朗、と言えば。
「一条はな、ああ見えても結構やんちゃと言うか荒っぽいところがあってな」
「荒っぽい……お父さんが?そりゃ、ノコちゃんに怒鳴ったりしたこともあったみたいだけど……」
「手帳やノートからは至って落ち着いていたと言うイメージがあるが。馬堂刑事、どう言うことだろうか」
 首を傾げる二人に、馬堂は顔色一つ変えず続けた。
「例えば……一度あいつが仕事場でやるのを嫌がっていると解かっていて、その辺に押し倒したらだな……」
「は……」
「うんうん、どうしたの?」
 言い掛けた言葉に、御剣は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になったが、美雲は未だ身を乗り出してこちらの言葉を待っている。馬堂はあの頃のことを鮮明に思い浮かべて、渋い顔になった。
「……顔面に飛び蹴りを食らったことがある。あれは結構痛かったな」
「顔面、そりゃ痛いよね。お父さん、もうちょっと手加減してくれれば良かったのに」
「……み、美雲くん、突っ込むのはそこではないと思うのだが……」
 青褪めた御剣が言葉を挟んだが、もう馬堂の耳には届いていない。再び甘酸っぱい思い出を脳裏に浮かべながら口を開いた。
「それに、初めてのときもな。あんまり痛い痛いと小娘みたいに暴れるんで、ついこっちも押さえが利かなくなっちまって」
「……」
「無理にことに及んだら、済んだ後で左ストレートを食らった。顔面にだ」
「お父さん、サウスポーだからね」
「いや……、だから美雲くん、突っ込むのはそこではない……」
「しかもその後、一ヶ月口を利いてくれなかった」
「お父さんてば、案外お茶目だったんだ」
「そうだな。他にも……」
 尚も楽しげに耳を傾ける美雲が何かに気付く前にと、御剣は目の前のデスクを思い切り叩いて叫んだ。
「その位にして頂こう、馬堂さん!」



おわり…