運命のいたずら6




狼狽に揺れる声が上がっても、矢張は聞き入れない。
夢中になると突っ走ってしまうのが彼だ。
今のうちに何としても止めなければ。
でも、下肢を弄る彼の手は一向に止まらない。
同じ男なのもあってか、呆気なく引き出される快楽に、成歩堂は酷く困惑した。
息が簡単に上がってしまう。
鼓動もどくどくと煩いほど早くなる。
無意識の内に更なる刺激を求めて、腰が震える。

「なぁ、成歩堂」
「んっ、な、何…」

暫くして、ゆっくりと下肢から手を離すと、矢張は成歩堂の耳元に唇を寄せた。

「ここまで来たら、お互い取り敢えずすっきりするしかないぜ」
「えっ!?そ、そんなこと…っ」

こちらの反応など知らないフリで、矢張が下衣に手を掛ける。
しゅるっとベルトを引き抜かれて、成歩堂は思い切り息を飲んだ。

「あ、ちょっと、待っ…、嫌だ…っ」

続いて、抗う間も無くずるりとスーツのスラックスが引き下げられる。

「矢張!!」

成歩堂は引き攣った声を上げ、逃げようと必死でもがいたけれど。
手が使えない上、足元に引っ掛かったスラックスが邪魔で、ただ無駄に体力を消耗するだけだった。

「成歩堂…」
「んッ…、ぅぁ」

直接指を絡めたものに刺激を与えられ、びくりと足を引き攣らせる。

「あ、矢…張…っ!」

何度も擦り上げられて、成歩堂は矢張の手の中で呆気なく達した。

「ふ、ぅ…あ、はぁ、は…」
「成歩堂、俺も…」

余韻も冷めないままで、急かすように降って来た矢張の声に、ぼんやりと顔を上げて緩く首を振る。

「んっ、でも、手…使えないよ」
「そ、そうか…えっと」

尤もな言い分に頷いた矢張は、何を思ったか。
不意に成歩堂の足元に引っ掛かっていた下衣を引き抜くと、それを床に投げ捨てた。
そして、膝の裏に手を回して、ぐい、と持ち上げる。
あられもない格好をさせられて、成歩堂はぎょっとしたように声を荒げた。

「な、何やってるんだよ!」
「成歩堂。いいだろ、ここ…」
「……?!」

言いながら、矢張の指先が奥へと伸びる。
彼の意味するところが解かって、一気に血の気が引いた。

「だ、駄目!!駄目だ!離せ!」

成歩堂は青褪めて首を振ったけれど、矢張は構わずに更に両足を割り開くと、閉ざされた場所に指を差し入れた。

「止め…っ」

不快感に眉を顰めるのにもお構いなく、矢張は先ほど成歩堂が吐き出したものを掬い取って、それを奥へと塗り込み始めた。

「お、お前、本気で…!」

抵抗を無視して、少しずつ埋め込まれる指先に、息が詰まる。

「い、痛…っ、く、む、無理…抜け!」

ぎゅっと目を閉じて懇願すると、彼の手は抜かれるどころか更に強引に侵入して来た。

「や、矢張…抜けって…!あ、ぁ…っ!」

勝手に浮き上がった涙が幾つも零れ落ちてソファに滲みる。
敏感な場所を撫でられて、無理矢理引き出される快楽に下肢がびくびくと引き攣る。

「くぅ、あぁ…あ!」

強引に限界へと引き摺られ、成歩堂は鳴き声のような悲鳴を上げた。

「い、いく、もう…止め…」

掠れた声を上げると同時に、指が思い切り引き抜かれた。

「……ぁ!」

突然刺激が途絶えて、治まりのつかない熱が苦しい。
秘部が無意識のうちにひくついて、誘い込むような動きを見せる。
矢張はその場所に自分のものを押し当てるとずずっと中へ身を進めて来た。

「ぐ…!ん…っ!」

彼のものが強引に侵入して来る。
あまりの痛みに、満足に抗議の声を上げることも出来ない。

「いっ、痛っ、あぁ…!」

苦痛の声を上げると、矢張の手が持ち上がって、そっと成歩堂の額を撫でた。
あやすような動きが繰り返されて、きつく閉じていた目を恐る恐る開ける。
そんなことで痛みが引く訳ではなかったけれど、混乱で満ちていた頭の中が少しだけ落ち着く。
何とか痛みを逃そうと、成歩堂は必死で体の力を抜こうと努めた。
それを見計らって、矢張がゆっくりと動きを開始する。
部屋の中には、乱れた二人分の息遣いと、濡れた音だけが繰り返し聞こえていた。
やがて。

「確か、この辺だったよな」

意味も解からないまま、呟いた声に反応して顔を上げる。
成歩堂が目を見張る中、矢張は一度ぐいと身を引き、中を探るように腰を揺らした。
内壁が擦れる感覚に、肌がざわりと粟立つ。

「んん……っ」

思わず身を捩ったところで、体中に衝撃が走った。

「ぁっ……!!」

攻め立てられているのが、先ほど彼が指先で撫でていた場所だと解かる。
強烈過ぎる刺激に、頭の中が真っ白になってしまう。

「や、いやだ…っ!あ…!」

成歩堂が掠れた声を上げる度、矢張の動きは一層激しくなって行った。

「ぁ、矢張…」

無意識のまま、縋り付く様に彼の名前を呼ぶ。
甘さなど微塵もなかったけれど、痛みを堪えて、目尻に涙を溢れそうなほど湛えている様が、彼の欲を煽ってしまったのか。

「成歩堂…!」

矢張は余裕のなさそうな声を上げると、ぐっと屈んで繋がりを深くした。

「くっ、ん、ん…ぁ!」

そのまま腰を抱かれて、何度も突き上げられる。
容赦なく絶頂に引き摺られて、成歩堂は組み敷かれたままで、ただ声にならない呻きを上げ続けた。



「成歩堂…」

気だるい空気が部屋中に溢れる中。
ぐったりとしてソファに身を投げ出していた成歩堂は、呼び声に反応して、まだ焦点の合わない目を矢張に向けた。

「何だよ」

声は喉の奥に引っ掛かったように掠れていて、体中だるくて仕方ない。
本当に、何て日だろう。
弱りきっている成歩堂とは対照的に、矢張は何だか水を得た魚のように生き生きとしていた。
こう言うときの彼は、何だか、眩しい。
しかも、彼は上機嫌な様子でぐいと立てた親指をこちらに突き付けて来た。

「あのさ。つまり、あれって…やっぱりお前だったってことよな」
「は…?」

何を言われているのか解からなくて、間抜けな声が出てしまった。

「何が?」
「だからよぉ、ほら、占いの…」
「……!!」

(し、しまった!忘れていた!)

そう言えば、そんなことを言っていたような。
キスをすれば、運命の人、だったか。
しかも、キスを交わすどころか、他にも色々してしまった。

「つまり、お前が俺の運命の人だった、って訳か」

言いながら、矢張はうんうんと一人納得したように頷いている。
このままでは、逃げられなくなってしまう。

「ちょ、ちょっと、待った…!」

慌てて待ったを掛けたけれど、矢張は至って上機嫌のまま、にや、と不敵な笑みを零した。

「そのロープ解いて欲しければ…俺の言う事聞けよな、成歩堂!!」
「……!!!」

あんまりな要求を突きつけられて、言葉を失う。
ぐらりと眩暈がして、視界がぼやけた。
本当に、一体何故、こんなことになったのだろう。
今日の朝には考えもしなかった。
それこそ、運命の悪戯に他ならないと、成歩堂は霞掛かった意識の片隅で思った。