Smack Smack




「いいから!そんなこと、関係ないじゃないか!」

食事をする約束をして、お目当ての店の扉を開けた途端。
よく知った人物の声が耳に飛び込んで来て、御剣の顔は綻んだ。
皆がぐるっと成歩堂を取り囲むようにテーブルについていて、中心にいる彼は妙に焦っていた。
きっと、総出でからかわれているのだろう。

「どうした?何を騒いでいるのだ」
「あ、御剣じゃんか!」
「み、御剣……」

御剣の姿を見つけると、皆は楽しそうに目を輝かせ、成歩堂はますます困ったような顔になった。

「今、なるほどくんが、キスとかしたことあるのかって話になってたんですよ!」
「や、止めろよ、真宵ちゃん!」

耳まで真っ赤になって成歩堂は静止するけれど、真宵は気にする様子もなく、御剣に向き直って、期待に満ちた目を向けて来た。

「御剣検事だったら知ってますよね?」
「ム……」

(どうなんだろう?)

目の前でこんなにも赤くなっている様子を見ると、何だか怪しいけれど。
何と言っても成歩堂だって健康な20代男子。
キスくらいあって当たり前、だろう。
寧ろ、ない筈ない。

(成歩堂が……誰かとキス……か)

「…………」

御剣は真相を突き詰めようとして、ちょっと不機嫌になってしまった。

「真宵ちゃん、聞くまでもないぜ。成歩堂にそんな経験……ある訳ねェ!な、御剣」
「ム……?あ、ああ、そうだな」
「御剣!お前までそんなこと……」

矢張に適当に相槌を打って、喚く成歩堂の隣に腰掛けながら、御剣は尚も悶々としていた。
そんな自分にお構いなく、周りは更に盛り上がっている。
まるで中学生とか高校生の修学旅行のごとく。

「少しは俺様を見習えよ、成歩堂!」
「何だったら、あたしが教えてあげようか、なるほどくん!」
「きゃあ、真宵様!是非そうしてあげて下さい」
「だから、何でそう……もう止めてくれよ!」

段々収集が付かなくなって来た周囲と、困り果てた成歩堂を見比べて、御剣はふと、あることを思い付いた。
キスしたことがあるか、ないか。

(私としてもはっきりさせておきたい……な)

それならば……。

「成歩堂」

何事か思い立って呼び掛けると、御剣は突然成歩堂に向き直り、ガシっとその襟首を引っ掴んだ。

「……?!!」

突然のことに成歩堂は言葉を失い、周りも一斉にこちらに注目する。
そうして、辺りに一瞬の静けさが広がった、直後。

「ん……ぅぅぅ?!」

御剣は、それはそれは思い切りよく、成歩堂の唇を強引に奪った。
勿論、ムードもへったくれもない。

「……」
「……」
「……」
「んむ……?!ううぅん……っっ!?」

自分の身に何が起きているのか、全く理解していないのか、成歩堂は目を限界まで見開いて、間抜けな声を出し。
矢張や真宵は口を限界まで開けたまま、放心してしまった。
そんな中、たっぷりと濃厚なのを思う存分して。
ようやく、御剣は成歩堂を解放した。

「これではっきりした。そうだな、矢張」
「え……?!あ、ああ……そうだ、な……」

何と無く満足気な声が出てしまうのも、仕方あるまい。
周りがドン引きしているのは、この際どうでも良いだろう。

「な、なるほどくん……?」

真宵が手を伸ばして、成歩堂の顔の前でひらひら掌を振ったが、反応はない。
いつもは成歩堂の不貞に怒り出す春美も、あまりのことに殴ることも忘れているようだった。

その後。
ちょっとした週刊誌の町のコーナーに、「天才検事熱愛発覚!」「お相手は貧乏弁護士?!」とか、そんな見出しが載ることになった。