即答




「どうしたんですか、成歩堂さん。溜息なんか吐いて」
「ああ、オドロキくん……」

王泥喜が声を掛けると、成歩堂は何だか思い詰めたような顔をこちらに向けた。
珍しく事務所にいると思えば、先ほどから何やら悶々と考え込んでいる。
何事かと続く言葉を待っていると、彼は溜息混じりに吐き出した。

「何て言うかさ、年頃の娘を持つと色々不安なんだよね。そろそろ言い寄る男が出て来たりしないか、とか」
「みぬきちゃんに、そんな人がいるんですか?」

あの、父親一筋みたいな女の子に?
ちょっと意外だと思いつつ、何となく興味を引かれたので、王泥喜は思い切って突っ込んでみた。
でも、返って来た返事には少し拍子抜けしてしまった。

「ああ、いるよ。例えば、牙琉検事とか、牙琉検事と………更には牙琉検事とか、いっぱいね」
「いやあの、牙琉検事は一人ですから。それに…俺が見ている限り、検事の方にそんな素振りは……」
「何か言ったかい、オドロキくん」
「い、いえ……」

反論した途端、ぎろりと睨まれてしまって、王泥喜は口を噤んだ。
全く、この人は娘のことになると我を忘れるらしい。
そんな大袈裟な彼の話は、まだ続く。

「まぁ、冗談はさておき」
「は、はい」

(冗談だったのか)

「クラスメイトとかでもね、この前告白なんかされたって言ってたよ。どう思う?ぼくのみぬきにさ」
「どう、と言われても……みぬきちゃん可愛いですからね。気持ちは解かります。それで、どうしたんですか?」
「勿論、校門前で待ち伏せして釘を刺しておいたよ」

(大人気ないな……)

そう思いつつも、内容が気になったので又突っ込んでみる。

「あの、何て言ったんですか?」
「ああ……。みぬきは止めて、ぼくにしておけって」
「……!い、異議ありィィ!!そんなんで、はいそうですかと諦めるヤツがいますか!!」
「そうかなぁ、いい考えだと思ったんだけど……」
「どこがですか!!」

当たり前の反論だと思ったのに、彼は何だか不服そうに、パーカーのポケットに突っ込んだ手をぐるぐる動かしてみせた。

「でもさ」

(まだ食い下がる気か……)

「例えば、きみがそのクラスメイトで、みぬきのことが好きだとして」
「は、はい……」
「こう言われたらどうする?」

そこで成歩堂は一旦言葉を切り、すぅっと深呼吸した。
何を言われても、答えは否定的なものだと決まっているのに。
全く、時間の無駄と言うか、何と言うか……。

「みぬきは止めて、ぼくを好きになってよ。オドロキくん……」
「解りました!そうします!!」