テノヒラ




「……っ!」

夜中、突然目を覚ました成歩堂は、ベッドの上で目を見開いた。
全身、汗びっしょりだ。今日もまた、あのときの夢に魘されていたらしい。
仕方ないかも知れない。まだあの裁判からほんの少ししか経っていない。
弁護に失敗し、被告人は行方不明、そしてバッジを奪われた。
底まで叩き付けられる悪夢の瞬間は、何度でも襲って来た。

でも、今日は落ちる瞬間に、何か力強い温かいものに体を引き上げられたような気がした。



とにかく、全身が濡れていて気持ちが悪い。タオルでも取って汗を拭おうとして、ふと、成歩堂は右手が動かないことに気付いた。

(ん?)

神経を集中してみると、誰かの手に握られているのが解かる。そして、胸の辺りには圧し掛かる僅かな重さ。
顔だけ動かしてそちらを見ると、ぴょんと跳ねた、ブラウンの髪の毛が見えた。

(みぬき、ちゃん)

彼女が、手を握っていてくれたのか。
きっと、毎晩のように魘されている自分に気付いて、心配で堪らなくなったんだろう。彼女だって、父親がいなくなってしまって、心細いに違いないのに。
多分、ずっと側にいてくれたんだろう。情けないな。しっかりしなくてはいけないのに。
でも。温かい人の手の感触は、ホッとする。
先ほどまでの悪夢の中で、体を引っ張りあげてくれたのは、きっとこの手だ。

暫くの間、すやすやと眠るあどけない寝顔を見詰めながら、成歩堂はふと、彼女の頬に涙の痕を見つけた。
思わず、ハッとしたように息を飲む。
みぬきは勿論、成歩堂のことが心配で、ずっといてくれた、と言うこともあると思う。でもきっと、みぬき自身も…もう誰にも何にも頼ることが出来ないのだ。彼女が頼れる場所、安心して眠れる場所は、もう唯一、自分の側だけなのだ…。
それに気付くと同時に、成歩堂はみぬきと繋がった掌を、無意識に握り返していた。

「うーん、パパ…?」

きゅっと力を込めたせいか、ようやく目を覚ましたみぬきが寝惚けたような声を上げた。

「ごめんね、起こして。ずっと、付いていてくれたのか?」
「うん!パパはみぬきがいないと駄目だからね」

にこ、と可愛い笑顔を浮かべるみぬきに、ちく、と胸が痛む。
何かに促されるまま、成歩堂はそっと空いている方の手を伸ばして、みぬきの髪を撫でた。

「もう大丈夫だから、みぬきちゃんも休むといいよ」
「え、でも……」

途端、寂しそうにさっと曇る顔に、慌てて付け足す。

「今度はぼくがついててあげるから。安心していいんだよ」
「…パパ…」

きょとんとしたような表情の後、パッと嬉しそうに顔が輝く。
その様子に柔らかい笑みを零して、成歩堂はもう一度そっと彼女の髪を撫でた。



―それって、家族になってくれるってこと?

あのとき、そう言って尋ねた彼女に頷いて、手を差し伸べたのは自分なんだ。
だったら、この手は絶対に離すことなんてないようにしよう。