gioc2
そんなに力を込めている訳ではないのだが…。
もがこうと試みる彼の動きは、あまり功を奏していない。
相変わらず腕を押え付けたまま、そっと顔を寄せて、響也は彼の唇を塞いでみた。
「…っ…んぅ?!」
目を白黒させて、成歩堂が呻きを上げる。
一体何が起きているのか、今の彼に理解するのはちょっと難しいんだろう。
弱っているところにつけ込むなんて、ちょっと卑怯かな…とも思うけれど…。
更に深く彼の口内を味わいながら、響也はシャツのはだけた胸元に指先をそっと滑り込ませた。
強張る体の緊張を解すように、優しい動きで肌の上をなぞる。
「…っ…!」
小さく、僅かにだけど掠れた声が上がった。
見下ろすと、ぎゅっと目を閉じて、屈辱に耐える顔が目に入る。
(・・・・ふぅん)
この反応。やっぱり、慣れているようには見えない。でも、悪くない。
若い欲と好奇心が、刺激される。
体温が上がって喉が渇き、響也は無意識に唇を舐めた。
「…う、…ん…っ?!」
徐に下へ滑らせた手で腿の辺りを辿ると…、驚いたように体が反応し、逃れようと四肢が蠢いた。
それを無視して、響也は器用にベルトの金具を片手で外した。
「…が、牙琉検事…!!ちょっと、待った!!」
殆ど脱がされつつも…何とかキスから逃れた成歩堂の唇が、抗議の声を上げる。
「悪いけど、却下だよ、センパイ」
「……!」
もう一度、今度は特徴のある尖った髪の毛を掌に握り締めて、強引に唇を塞いだ。
「……んっ」
悪戯の範疇を越えていることくらい、自分でも解かっている。
しかも、ここは…あろうことか兄の事務所で。
バレたらどうなるだろう。
あくまで穏やかに、だが恐ろしく怒っている兄の姿が浮かんで、響也は身震いする代わりにそっと肩を竦めた。
最初は、ただ、興味があっただけなのに。
世間での知名度と裏腹に、兄が言うには、ろくでもない男…に。
法廷で見せた静かな目は、罪を認めたことから来る諦めなのか。
器量の小さなヤツほど無駄に足掻いてみせる。
でも、あれは…。あの潔さは?
けれど、正確な答えなど、今の響也には解かるはずもない。
それに…。
ある程度の抵抗は見せているものの、彼の体が…響也の動きに合わせて、徐々に熱を孕んで行っているのは確実だった。
今更止まる気はない。と言うか…止まれない、と言うか。
「大丈夫だよ、何だかぼくの方があんたより上手そうだから」
「…!!そ、そんなこと…なんで解かるんだよ!」
「納得いかない?なら確かめてあげるからさ」
「……!!」
悪戯っぽく言いながら、膝の辺りまで下衣を引き擦り下ろすと、成歩堂は驚愕に息を飲んだ。
徐に腕を伸ばして膝を左右に割ると、狭いソファの上で、彼の体が上へ逃れようと身じろぐ。
「待ってくれ、本当に…いい加減…っ」
「大丈夫だよ、ちゃんと慣らしてあげるから」
「…なっ…何だって??!!」
ぎょっとした顔の成歩堂に、思わず笑みが漏れる。
まるで、好きな子を虐めている小学生のような気分になって来た。
彼の方が、ずっと年上だと言うのに。
「悪いけどさ…逃がす気ないから」
言いながら、見せ付けるように、指先を口に含んで潤すと、彼の目に怯えに似た色が走った。
「…ちょっと!本当に、待ってくれ!」
「少し黙っててくれないかな?」
溜息混じりに酷い本音を吐き出すと、戸惑いもなく…探り当てた後孔にグイと指先を潜り込ませた。
「…う…あぁ…ッ!」
訪れた痛みに、両足に力が入って引き攣る。
「……うっ」
指先を彼の中でそっと揺らすと、短い悲鳴が上がった。
額に浮き出た汗を、もう片方の手で優しく拭うと、潤んだ目が薄く開いて、何か言いたげにこちらを見上げて来る。
当然、言いたいのは恨み言に違いないが。
(真っ直ぐな目だ…)
響也は暢気にそんな感想を漏らした。
彼への印象はずっと変らない。
真っ直ぐで、お人よしそうで。
(何で、あんなことをしたんだろうね、本当に…)
「…くっ…、ぅぁ…!!」
言葉を交わす代わりに、ぐっと奥まで突き上げると、小さな悲鳴が上がった。
震える手が持ち上がって、彼が自分の口元を掌で覆う。
この期に及んで、新米で年下の検事になど、情けない声は聞かせたくないと言う訳だろうか…。
「……くっ!!」
生意気な抵抗を見せる彼から、そっと指を引き抜く。
「……っっ!!牙琉検事!!」
代わりに宛がわれた感触に、成歩堂は一瞬身を震わせて呼び声を上げたが。
逃げ出せないと解かったのか、すぐに諦めたようにきつく口元を塞いだ。
さっきまであんなにうろたえて、見っともなく哀願していたクセに。
土壇場になると妙なところで強いのは、彼の特性…と言うものだろうか。
でも、一体…いつまでそうしていれるんだろう?
性質の悪い好奇心が込み上げて、響也を揺さ振り動かす。
「…んんっ…!!!」
強引に身を進めると、喉の奥で苦痛の声が上がった。
それでも、声を殺そうとしてか、掌で更に唇を覆う。
「強情だね…成歩堂弁護士さん」
でも。だからこそ…。
そこまで思い巡らして、響也は無理矢理思考を寸断した。
これ以上自覚したら、何だか逃げれなくなりそうな気がしたからだ。
まだ若い響也にとって、深くのめりこむことは、ちょっとした恐怖に似ている。
「んっ…ぅ、あ・…っ」
少しずつ艶を帯びて行く声が、途切れ途切れに耳元へ届くのを聞きながら。
考えることを放棄した響也は、代わりに目の前の行為に夢中になった。
「何でぼくが…こんな目に遭うんだよ…」
本当に心身共に疲れきっていたのに、そこを更に無茶苦茶された成歩堂は、当然、物凄く恨めしそうな顔で響也を睨んで来た。
流石に、ここまでする気はなかったのだけど…。
じゃあ何処までする気だったのか、明確なことは響也にも解からない。
「…好きにしていいって言ったから…じゃないかな?」
だから、謝る代わりに開き直ってみると、成歩堂は心の底から深い溜息を吐いた。
「きみは…牙琉先生の爪のアカでも煎じて飲ませて貰った方がいいかもね。とにかく、もう帰るよ…」
「あ、元弁護士さん。ついでだけど、今日のこと、その牙琉先生には秘密にして貰えると嬉しいな」
「当たり前だよ!言える訳ないじゃないか!!」
「じゃあ、二人の秘密って事だね、よろしく」
「……」
わなわなと肩を震わす彼に、くったくのない笑顔を向けて手を差し出すと、成歩堂はぐったりしながらもその手を取った。
「又いつか会いたいな、成歩堂…元弁護士さん」
見えなくなった背中にそっと呼び掛けて、響也もその後、こっそりと霧人の事務所を後にした。
END